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<<   作成日時 : 2015/03/14 13:00   >>

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東への鉄路 近鉄創世記 上』『東への鉄路 近鉄創世記 下』を読みました。1974年に刊行された本が、2001年になってハードカバーで再刊されたものです。著者の木本正次氏は、毎日新聞の記者で、これ以外の有名な著書としては『黒部の太陽』が挙げられます。

表題の通り、近鉄の創世を描いた本で、大阪電気軌道(大軌)に始まる歴史を説明しています。生駒トンネルの建設費がかさんだのに思うように利用者が増えなくて、首が回らなくなって生駒山の宝山寺に賽銭を借りに行った、という有名なエピソードが描かれています。借りに行ったのは後に大軌社長を務める金森又一郎氏だそうです。金森氏は本当に苦労人という感じで描かれており、体調の悪いのを宥めながらなかなか業績の良くならない会社を懸命に牽引してきた様子が伝わってきます。宝山寺関係者は、初期の大軌に多大な貢献をしており、この時だけではなくその後も資金の貸し出しや株の買い取りなどで大活躍しており、これでは確かに近鉄は宝山寺に頭が上がらないはずです。後に近鉄が大会社へと成長したことで株価も上がったはずなので、宝山寺にもそれなりに利益はもたらされたのでしょう。この本だと、初期の財務整理の苦労がとくとくと語られていますけど、実際のところこのあたりの経営不振を一気に吹き飛ばしたのは第一次世界大戦の超好景気なんですよね。

「東への鉄路」というタイトルは、後に参宮急行(参急)の専務取締役となる井内彦四郎氏が、もともと銀行員であった時に、大軌への入社を勧められて、三菱銀行の創業関係者であり郷土の先輩である豊川良平氏に相談して、今の東海道線などトロトロ走る田舎汽車に過ぎないから、代わりに一直線の線路を敷いて東京へ走ってこい、と発破をかけられたというエピソードに由来します。そして井内氏は、実際に大軌・参急そして関西急行(関急)を必死になって東へ伸ばしていく仕事に従事するわけです。実際には東京への延伸はならず、名古屋で止まってしまうわけですが、将来的にはるか東京を目指すために必死に良い線路を建設しようとする井内氏と、1銭でも無駄な金を支出させまいとして線路を曲げようとする、参急の社外取締役で東急の社長である五島慶太氏が、激しい言い争いをするシーンは、この本を通じて何度も出てきます。

三重県内において、後に近鉄名古屋線となる路線を敷設した伊勢電気鉄道(伊勢電)との競合関係、そして名古屋への延長を伊勢電が目指しながら、伊勢電を率いる熊沢一衛氏が濃尾三川の架橋問題・鉄道省の橋梁払下げ問題で疑獄事件に巻き込まれ、昭和恐慌の経営難によってついに実質的に経営破綻に追い込まれるストーリーも面白いです。参急も恐慌で経営難になっていたので、一歩間違えば同じ道をたどることになっていたわけです。伊勢電経営者の熊沢氏の短歌「いつの日か わがねぎ事の かなふらむ 命をかけし 木曽揖斐の橋」「いなづまの 車はしるは いつの日ぞ 恨みは長し 木曽の大橋」は、その実感がよく表れていると思いますが、惜しむらくは、後の短歌が「車」を「事」に誤植されてしまっています。1974年版を持っている人の話では「車」だったそうなので、ハードカバーで再刊する時に文字を誤ったと思われます。

そして参急が伊勢電を合併し、関急を設立して念願の名古屋乗り入れを果たすまでも、さらに当事者でなければ知りえないエピソードが盛り込まれており、まったくもって面白いです。井内氏からの聴取がベースとなった本であるため、井内氏が一線を退いた後は簡単な説明になってしまうのですけど、伊勢湾台風に際しての名古屋線の一気の改軌作業、難波への延伸、そして新青山トンネルの話も最後に少し出てきます。

小説という形態を取っており、実際まるで見てきたかのように生き生きと人物間のやり取りが描かれている場所もあるのですけど、これは著者がかなり想像を交えて書いたものなのでしょう。ただし後書きにある通り、木本氏はできるだけ事実に忠実であろうとし、膨大な文献を調査し関係者から聞き取りを行って書いているので、細かい発言の字句はともかくとして、内容自体は事実に忠実なのだと考えます。私も古い文献を漁っていろいろな事実を調べてきてはいますが、やはり最終的には関係した人に聞かなければ出てこない話があるわけです。井内氏とたまたま木本氏が巡り合うところに始まり、何度も訪問して聞き取りを行い、さらに周辺の近鉄関係者からの聞き取り、関係者宅に死蔵されていた文献の発掘と、木本氏は実に重要な仕事をなしたと言えます。井内氏は、肝心の裏事情についてはなかなか語らなかったのに、死を前にして立て続けに事実関係を明かしたそうで、木本氏の仕事が無ければそのまま墓場へ持って行かれたことがあったのかもしれません。

この本は、まったくもって見事に、近鉄という会社が如何に形成されてきたかを描き切っています。近鉄を知ろうとする人にとっては、必読の本だと思います。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
近鉄沿線住民でありファンの私としては東京まで足を伸ばそうとしてた近鉄の野望にはビックリですわ〜
なんやかんやで大阪上本町〜中川経由名古屋行きでも民鉄的には立派ですね。(国鉄・JRと比べてはいけませんねw)
とうこ
2015/03/16 06:06
民鉄としては異例の線形の良い路線ですよね。
あの特急網の充実ぶりといい、たまらない魅力です。
Tamon
2015/03/16 23:19

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