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zoom RSS 語られなかった敗者の国鉄改革

<<   作成日時 : 2016/05/19 13:00   >>

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アメリカ出張中に『語られなかった敗者の国鉄改革』を読み終わりました。著者の秋山謙祐氏は、国鉄の最大労組だった国労の企画部長(実質ナンバー3だそうです)を務めていた人です。

まえがきの部分で書かれていますが、JR東海の社長・会長を務め、国鉄改革三羽烏と呼ばれた葛西敬之氏の『未完の「国鉄改革」』が発刊された際に著者がこれを読み、自分たちの運動の進め方に関して後から振り返った考えを書いて送ったところ、「君にはそれを残す責任がある」という返事が来て、一念発起して書き上げたのが本書だ、ということだそうです。確かに、歴史の事実を知る人は年々減っていく一方であり、当時を知る人にはそのことをきちんと記録に残して行ってもらわなければ、後の時代の人にはその当時のことが分からなくなるのであり、毀誉褒貶が激しい人であるとはいえ、葛西氏はそのあたりはさすがだと思われます。

内容は、秋山氏が鉄工所で勤務した時の思い出、静岡で国鉄に就職することになり、その中で組合運動に関わるようになって、やがて研修を受け、各地で集会に参加して、国労の活動家として駆け上がっていく様子が描かれています。そして、東京の本部に呼ばれて企画部長に就任し、国鉄分割民営化問題で右往左往し、ついには有名な修善寺大会で国鉄分割民営化承認の決議を採決にかけるも、否決されて執行部総退陣に至る経緯、その後鉄産総連の結成に関わってJR連合へとつながる流れまで書かれています。

私は、国鉄改革の経緯を概略では知っていたものの、国鉄労働運動の経緯に必ずしも詳しくなかったので、この本でうまく国鉄労働運動史を概観してくれているところはとてもよかったです。国労という組織は地方本部が強く、必ずしも東京の本部の意向が通用するわけではないこと、国労内に太田派、向坂派などいくつもの派閥があって、それぞれに意見対立があること、などが説明されていました。時系列で説明されていく中で、順次新しい言葉が登場してくるので、ちょっと全体像を整理しづらいです。国労の組織構造や派閥の違いなどをまとめた資料が別に欲しくなります。

後段では、まさに国鉄改革の騒動になった時に、国労の側ではどう動いていたのか、その内情が克明に描かれているように思います。結局のところ、原理主義的な分割民営化反対の動きが強くて、条件闘争のような形にうまく持って行くことはできなかったのですね。動労が一気に方向転換して「勝ち組」になったのは、組織が一本化されていたからなのかな、と想像しますが、この本では動労の内情についてはよくわかりません。政治家や官僚、国鉄幹部などとの交渉の話もいろいろ出てきますけど、いかに表立っては対立していようとも、やはり裏ではこういう形でやり取りが行われていたのだな、と確認できます。国労内部の情報が国鉄幹部に全部筒抜けになっているくだりは、まったくもって唖然とさせられます。職員局の関係者が、「国労はもっと戦略性を持って動いていると思っていたのに、場当たり的に対応しているだけとわかってがっかりした」というくだりもありますが、まさしくその通りです。もっとも、戦略性をもった執行部がいたとしても、これほど国労内部での派閥対立があったのであれば、うまい方向に路線転換していくことは難しかったのではないかとも思われます。

ウェブ上でこの本の書評を探すと、pataさんのところは、田中角栄との関係、国鉄改革三羽烏の働きが実際は何だったか、といった情報とともに語られています。どうも実際に著者の秋山氏のことを知っているようですけど、切れ者だったという評のようです。轍のあった道さんのところでは、背景知識が無いと読むことが難しい本であること、国鉄内部の生々しい動きが描かれていることなどを評しています。確かに国鉄労働運動の歴史をもう少し詳しく知りたいところです。そしてtogetterのまとめがありますが、これは国鉄の破綻に対する総括を求めていたのに、実際の本には人間ドラマや、著者の自己弁護に終始しているという厳しい批判ですね。ただこれはかなり的外れな感があって、もとから国労内部ではどのように行動していたかを描く本なのであって、国鉄改革自体の労組側からの総括という本ではないので、本人も書いているように「勝手に期待したのが悪かった」ですね。

私としては、当時の国労という組織の内情、国鉄改革にあたっての国労側の動きの実態、というものが良く描かれていて良い本だったと思います。自己弁護が酷い、という批判に対しては、この本のこの程度の内容でそこまで批判するものか、と思いますね。自分はこう動いたのだ、こういう理想があったのだ、と書くのは一向に構わないでしょう。また結局自分たちの敗北であったことは十分認めているわけですし。これに対して動労側の動きはどうだったのかをまとめた本が欲しいですが、彼らがまとめると大本営発表集みたいになってしまうことは確実であり、この本のような比較的率直な内実は出てこないものと思われます。

葛西氏の『未完の「国鉄改革」』『国鉄改革の真実』も買ってはあるのですが、まだ読めておらず、国鉄改革関連はまだまだ勉強することがたくさんありますね。

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