分割民営化と国鉄自動車

実家に帰ってきてみると、父が『分割民営化と国鉄自動車』を入手しているという驚きの事態がありました。この本はいわゆる同人誌で、一般に流通しているようなものではないのですが、人づてに手に入れたようです。私も読んでみたかった資料なのですよね。

この本でも触れられているように、国鉄分割民営化にあたっては、鉄道網をどうするかの方に関心が集まってしまい、国鉄の一事業部門であった自動車局をどうするかについては、あまりどういう経緯で決められていったのかがよく知られていませんでした。国立公文書館所蔵の国鉄再建監理委員会資料を当たり、国鉄バスの取り扱いについて周辺資料も参考にしながらまとめられたのがこの資料ということになります。

まず大前提として、国鉄自動車は鉄道の補完が大きな目的であり、それ単独で収益を出すことは目的とされていませんでした。いわゆる国鉄自動車の五原則というものがあり、「先行・短絡・代行・培養・補完」という5条件のどれかに適合する時だけ、路線を開設できるものとされていました。こうした理由で、閑散区間に路線があることも多く、国鉄が運営していた時代に、国鉄自動車が営業利益を出したことは一度としてありませんでした。そこをどのように取り扱うのか、かなり議論が繰り広げられていたことがこの資料で分かります。

まず、国鉄自動車は民間バスに比べてかなり生産性で劣っていたことは事実のようで、したがって民間並みの生産性を向上させるとどうなるのか、というあたりがかなり試算されていました。それで経営が成り立つように持っていかなければなりませんからね。

また、鉄道と一体が良いのか、バスだけ分社するのか、というところも議論されており、国鉄当局側もどちらが良いのか決めかねていたようです。ラッシュ時だけ鉄道を運行して閑散時はバスに任せる、というような合理化策を講じたいのであれば鉄道と一体が良いが、そもそもどうしても鉄道と一体でなければならない理由はなく、労働者の待遇や勤務体系をバスに最適化するのであれば、バスの分社化にも合理性がある、ということだったようです。結果的に、いったんは鉄道と一体で発足させ、6か月以内に旅客会社の側で方針を決めることになっていたそうで、本州3社はいずれも分社を選択したのに対して三島は一体継続を選びますが、結局三島もその後分社化されました。

どの範囲で分割するかが興味深いところで、鉄道に比べると一体で運営することのメリットがさらに少ないとされたようです。考えてみれば当たり前で、鉄道では現状でも、鉄道会社が主体となって技術開発を行わなければならないところは多々あり、あまり小さな会社に分割してしまうと技術開発に十分な資金と人員を投入できなくなってしまいますし、各社バラバラに技術開発をすることのデメリットが大きくなります。しかしバスでは、鉄道のような信号通信や線路といった分野はまったく管理する必要がないので、技術は事実上車両だけに必要であり、その車両もメーカーが開発の主体であって、バス会社は車両を買ってくるだけです。また、鉄道を細かく分社化すると他社との列車のやり取りの問題が生じますが、バスの場合は完全上下分離ですので、他社の領域にバスを走らせることに何の問題もありません。そう考えれば、地域密着経営のために1営業所単位で分社化してしまうということすら考えられたようですが、結局自立できない営業所がどうしても生じるということで、ある程度の単位でまとめることになったようです。

こうしてみると、バスもいろいろ試算しながら経営自立のために最適な計画が練られていたことがわかります。しかし結局、やはり総合交通体系の考え方はあまりないのだな、と思わざるを得ません。鉄道とバスを通しで考えて、日本という国土に最適な交通網を設計するとどうなるのか、という発想はないのですよね。もっとも、民間が営利で交通事業を営めるという、ある意味極めて恵まれた国土であるがゆえに、国家が交通の最適設計を行うということに及び腰になっているのも事実であり、難しいところがあります。

それにしてもよくまとめられた資料であり、これは商業出版でやって欲しい内容だと思いました。

この記事へのコメント

たづ
2019年01月05日 16:19
ウィキペディアにも多少記事がありますが、国鉄バスの場合、「国鉄専用形式」なるものをメーカーに要求してますます高コスト体質になっていたようです。
今の日本のバスは僅かなAT車以外、当時よりほぼ全て2速発進で1速は特別なときしか使いませんが、国鉄だけ1速発進でかつ高速バス向けはいろいろな装備をてんこ盛りした仕様でした。
仕様を決めていた幹部が私鉄系バスのことをわかっていなかったのでしょう。
早期に分社した本州でも、同じ幹線ルートを他の民間事業者や他JR系と共同運営してるケースがいまはありますね。
Tamon
2019年01月05日 23:19
一方で大変馬力のあるエンジンを積むことを要求したので、東名・名神高速で大変速かったとかそんな話もありましたね → 国鉄専用形式。
まあそれがどこまで役に立つのか意味がよくわかりませんが。

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