ふたつのドイツ国鉄

ふたつのドイツ国鉄』を読み終わりました。著者の鴋澤歩氏は経済史の研究者でドイツの鉄道に関しての著書があります。この本以前に『鉄道人とナチス ドイツ国鉄総裁ユリウス・ドルプミュラーの二十世紀』、『鉄道のドイツ史』とドイツ鉄道史関連の本を2冊出しており、このほかにも研究書ですが『ドイツ工業化における鉄道業』というものがあり、今回の『ふたつのドイツ国鉄』の後には『ナチスと鉄道』も出しています。これまであまり多くなかったドイツ鉄道史の日本語での本が、これまでの短期間で続けて出てくれたのは鴋澤氏のおかげです。

さて、「ふたつの」ドイツ国鉄というのは、第二次世界大戦後の東西分断時代のドイツで、西ドイツと東ドイツにそれぞれ国鉄があったことを指しています。つまり戦後分断時代の両国の国鉄の歴史を1冊にまとめ上げた本だということになります。『鉄道のドイツ史』への批評で、西ドイツ国鉄DBには6ページ、東ドイツ国鉄DRには4ページしか割かれていないと紙幅の不足を嘆いたコメントを書きましたけど、この本でその部分は完全に補完されている感じになっています。この本の後に『ナチスと鉄道』が出て戦中期も強化されるわけですし、各著作でドイツ鉄道史の各時代が揃ってきた感じです。

ただ、やはり著者が経済史の研究者であり、前回の本でも批評した通り、技術面についてはほぼノータッチです。新型車両の開発とかもほとんど出てきません。かろうじて路線の電化とかの話題は出てきますが、統計的な扱いがされていて、どの区間が電化されてどう影響して、みたいな話はありません。ダイヤ改正に伴う列車体系の変化と言った話もほぼありません。TEEの話は出てきますけど。一方で、人物的な観点が強く出ているように思います。どういう人物がどういう役割を果たしてどういう結果をもたらしたのか、みたいな話は結構出てくる感じですね。

DBは、戦後大きな生産性向上を達成して、人員が余剰になって整理が課題になり、自動車との競争でシェアを失って財政問題になる一方、DRは資金投入の欠如のために一向に生産性向上が進まず人員を注ぎ込んで輸送力を引き上げるほかなく、自動車との競争が制限されていたためシェアは高いままだったが財務的には厳しいまま、という皮肉な対比が描かれています。東側の体制問題に関心が深いのか、DBよりもDRに重点が置かれている感じですね。この本を読んでいると、東ドイツの社会主義体制は約束された失敗という感じに見えてきます。

やはり技術面を補わないとドイツ鉄道史の全体が見えてこない感じがします。しかし戦後の分断期をまとめる本が出てくれたのはとりあえず嬉しいところ。『ナチスと鉄道』も購入済みなので読みにかかるのが楽しみです。ドイツ再統一から30年が経過し、ドイツ鉄道発足からもまもなく30年になろうという時期ですので、再統一以降の鉄道史も期待したいです。

この記事へのコメント