鉄道のドイツ史

鉄道のドイツ史』を読み終わりました。著者の鴋澤氏は経済史学者で、ドイツ経済に関する研究の過程でドイツの鉄道についても触れており、過去に『鉄道人とナチス ドイツ国鉄総裁ユリウス・ドルプミュラーの二十世紀』という著作もあります。

この方は本業は経済史学者ですので、ドイツの経済統合に鉄道が与えた影響などというものを研究されていたわけです。また、プロイセン時代に文官任用制度というものがあり、プロイセン軍で一般兵から一定年限を勤めあげて下士官で除隊した人に対し、除隊後の生活を保障するためにプロイセン政府の他省庁で文官として優先的に雇ってくれることになっていて、それがプロイセンの邦有鉄道に与えた影響というのも分析しています。それが専門だというのはわかるのですけど、あくまでドイツ鉄道の通史であるはずのこの本でそこまで詳しく言及するだろうかというくらい書かれています。また、専門家であるがゆえに軽々に断言はできないということなのでしょうけれど、それで結論は何なの、といいたくなるような文章になってしまっています。

そして技術面には弱いということなのでしょうけれど、機関車とか信号システムとか、そういう技術的な発展に関しては一切触れられていません。各路線の開業についても、非常に簡素に説明されている程度です。19世紀後半の発展に関して、車内貫通通路を備えてトイレや食堂車への行き来ができるようになった急行用のD列車なんかは重要なはずなのですが、まったく触れられていません。

一方でどういう人物がいて鉄道史にどう影響したか、という観点は割と出ています。また領邦とドイツ帝国政府の関係なども詳しいです。一番良いのは、第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけての時期の記述で、バイエルンとヴァイマル共和制ドイツ中央政府が国有化をめぐって争って、バイエルンにだけグループ管理局が置かれる経緯とか、ホムベルガーという財務の専門家が出てきてライヒスバーンの経理を改革し、財政再建を成し遂げる話とか、実にうまくまとめられています。ホムベルガーはユダヤ人だったため、最後はナチス政権に追放されてしまうのですが、それでもナチスをして当初は「追放することができない」と言わせるほどの重要人物だったのだとか。ユダヤ人の追放輸送についても的確にまとめられていると思います。

第二次世界大戦後はまったく手薄で、西ドイツ国鉄DBについては6ページ、東ドイツ国鉄DRについては4ページで終わりです。もう少し何とかならなかったものか。

もともと新書という薄い本の枠で何とかしようとするから無理があった面もあるのでしょうけれど、前半のペース配分を工夫すれば改善できたところもあるように思います。また、有名な機関車メーカーMaffeiをマッフェイと書いていますが、日本ではマッファイと読むのが通例だと思います。ウィーンもヴィーンと書いていますし、標準ドイツ語ではそう読むのだという考えなのかもしれませんが、日本での通例を無視するのもどうかなと感じます。

とはいえ、ドイツの鉄道史の通史をやってくれている日本語の本は、他には平井正『ドイツ鉄道事情』くらいしか思い浮かばないので、貴重な本だと思います。

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