Fire and Steam

イギリスで鉄道関連の著作が多い作家のクリスティアン・ウォルマー氏の、"Fire and Steam"を読み終えました。出張のたびに持参して、行き帰りの飛行機の長い時間で読んでいたのですが、やはり英語の本を読むのは骨が折れて、ここまで時間がかかってしまいました。ウォルマー氏は、イギリス国鉄民営化の失敗を描いた『折れたレール』、鉄道と戦争の関係を描いた『鉄道と戦争の世界史』、世界全体の鉄道史を描いた『世界鉄道史』など、数々の鉄道関連の著作があります。しかし、日本では外国の鉄道に関する著作はあまり売れないとされているためでしょうが、翻訳されていない著書もあり、イギリスの鉄道の通史を描いた今回の"Fire and Steam"も未訳です。考えてみると、『折れたレール』の翻訳が出ていること自体が凄いことですね。

イギリスの鉄道史は、断片的には承知していたのですが、初めて通史を読んで、なるほどと思います。初期には本当に自由競争で、お互いに競争しあって造っていったので、路線網に非合理なところが多々ある、ということです。ライバルに客を奪われるくらいなら、赤字になったとしても自社の鉄道網を広げて集客しようとするので、個々の路線では最初から赤字なのに建設された例がある、などと説明していました。なんというか、合成の誤謬というか。

たくさんの私鉄が競争していた時代から、ある程度の合理性を考えて統合を行う必要性が感じられていたのですが、きっかけとなったのが第一次世界大戦で、一時的にすべての鉄道が政府の管理下に置かれて運行されます。それによって鉄道間の差異が少なくなり、戦後の強制合併措置につながります。いわゆるビッグフォーの時代で、4大鉄道会社がイギリスの鉄道網のほとんどを管理するのですが、それでもまたいろいろ不合理な点があったところが描かれます。そして自動車との競争が始まり、急速に利益水準が低下していって、ほとんどの鉄道は配当を行えない状態となって、第二次世界大戦に突入します。

結局、第二次世界大戦後はすべての私鉄を買収してイギリス国鉄が発足することになるのですが、ここで面白いのが、地方分権が行き過ぎて、地方局ごとの独立経営がおこなわれ、全体の統合性を考慮した運営が行われなかった、としていることです。日本国鉄では中央集権が行き過ぎて、地方の実情を考慮した運営が行われなかった、という批判がありますが、イギリスの状況をみると、両面性があるのですね。また近代化計画が遅れすぎ、戦後も長く蒸気機関車を造ってしまい、満足に試作もしないディーゼル機関車を大量発注して不具合を抱え資金を無駄にしてしまい、政治のころころ変わる方針に左右されて電化は進まず技術は蓄積されずと、まあ日本の国鉄も失敗したところがあるが、イギリス国鉄はその3倍複写だな、という感じがします。こうしてみると、日本国鉄はまだうまくやった方なんですよね。

しかし、ただひたすら路線網と駅の削減を突き進めたビーチングの時代を過ぎると、イギリス国鉄はうまく経費を削減してほどほどの赤字で安定させ、インターシティのサービスを拡充して旅客需要を増大させるなど、うまくやれていた時代もあったようです。ウォルマー氏はこの時代を高く評価しています。これなら、民営化する必要はなかったのではないかと。結局政治の問題なのですよね。赤字を問題視して、過大な目標の民営化を実施することになり、結局うまくいかない仕組みを作ってしまって、イギリス国鉄の時代の何倍もの補助金を投入する羽目になり、それでも運賃水準は大幅上昇、という結末になります。

図や写真がほとんどなくて、延々と文章を書かれているのは、辛いものがありますね。特に外国のことなので、地図なしで考えるのは大変です。洋書はよくこういうところがありますね。鉄道ファンが期待しがちな車両の話はあまり含まれていません。労働条件とか政府の政策とか、そういう話が中心で、全体を把握するのには良いですが、個々の鉄道についてはそれほど詳しくないので、詳しく知りたければ他にも本を読むべきところがあります。

しかし良い本です。図版を改良してほしい点はあれど、できれば日本語訳も欲しい本ですね。

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