日本蒸気機関車史

日本蒸気機関車史』を読み終わりました。髙木宏之氏の著作で、以前の『国鉄蒸気機関車史』に続く著作ということになりますが、今回は井門エンタープというところから出版されており(井門は鉄道模型で有名なところですね)、前回のネコ・パブリッシングとは異なっています。

国鉄ではなく日本と付けたのは、外国向けの輸出機や満鉄、鮮鉄、台鉄などの外地向けの機関車が最初でかなり扱われているからのようです。日本で設計製造された蒸気機関車全体を捉えた、ということになりますね。まあよくこれだけ資料を集めてきたものだというくらい、いろいろな資料から引っ張ってきて機関車の実像を解説しています。満鉄や鮮鉄の機関車に関しては、欠点もいろいろあるものの、おおむね高評価されているようです。国鉄の機関車に対する悪い評価とはかなり異なっている感じですね。

火格子面積に対する火室容積はどれくらいがよいか、標準的な値が決まっているようで、それに対してどうなっているかとか、あるいは蒸気としての出力と気筒出力の比率とか、そういう観点で評価されています。内地の機関車はどうしてもボイラーが小さくて、連続して大きな出力で走行していると蒸気不足になってしまうのですね。なぜこうなったのか、といえば、朝倉希一あたりが非常にケチで車両費を抑えることばかりを考えて、できる限り小さく造ろうとしてしまうからのようです。大型のボイラーでゆっくり燃料を燃やした方が効率的なのに、小さくしてそれを全力で動かしてしまうのですね。それでいて、左先行の9600は右先行に直して全国の機関区での保守の手間を削減するというようなことはしないのですから、なんともです。

機関車の技術を研究する会議でも、朝倉がいなくなった途端に改良のペースが速くなった、と書かれていて、もうかなり酷い評価という感じですね。それに比べれば島秀雄あたりへの評価はかなりマシな感じを受けます。

かなり密に詰まって書かれている本で、読むのに時間がかかりますが、蒸気機関車の技術に興味がある人にとってはいい本です。あまりエピソードみたいなものは多くないので、物語といった感じではないですね。

この記事へのコメント

たづ
2021年06月29日 18:47
ご提示の2冊とも読んだのですが、この2冊は技術的に的確な内容だと思います。
朝倉希一ら明治~大正の鉄道省幹部技術者の最大のオチは、ドイツ流儀によるのはまだしも、首都で平野部のベルリン近辺しか見てきていなかったことに尽きると思います。なぜ山岳地帯の南ドイツを見てこなかったのでしょうか。
日本の路線の殆どは山岳地帯を通ります。それ向けでない車両を流用するのですから、そもそも無理があり余計な動力費や人件費が嵩んだのも納得できます。出費のみならず、重大な窒息事故すら招いたので、失策でしかありません。
加えて、日本の国鉄は官庁だった故に、明治の国有化以来昭和末の民営化まで技術的・企業的観点での運営がほとんど出来ていなかったのではないかと思っております。
「国策会社」とはいえ曲がりなりにも企業であった満鉄は、そうした役所のしがらみからある程度逃れられたゆえ、アメリカより劣る日本の技術水準という足かせを受けていても、内地より数段先進的な車両開発が出来たという印象です。
そして鮮鉄は官庁ながら、規格が近いほか満鉄に色々委託していたことが結果有利に働いたのだと考えます。
海外・外地向け車両で、外観上日本国鉄と類似形であっても、実情に即した車両が作られたケース、タイの軸重10.5tのミカドや762mm軌間の大型機などは、なぜ日本国内向けに設計が流用されなかったかと思うほどです。
私も大いに頷けた内容の本でした。
Tamon
2021年06月30日 00:05
国鉄はかなりお役所的ですよね。一方で、最初から民営が良かったかと言えば、新幹線はおそらく民営では実現しなかったんじゃないかなというところがあります。